ミニスカ、乳踏み、尻たたき…「信者に傷害」霊能団体の「アメ」と「ムチ」
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踊り狂うミニスカートの女性信者。弟子に激しい罵声(ばせい)と暴力を繰り返す“教祖”。女性信者の尻を棒で殴りけがさせたとして霊能団体「ロマゾフィー協会」(東京)代表の平岩浩二容疑者(49)と妻の司容疑者(36)が逮捕された事件。元信者の証言などから協会の異様な実態が浮き彫りになっている。「幼少から霊の姿を見ることができた」と霊能者を自称する平岩容疑者。豊富な雑学に裏打ちされた“説法”で信者を歴史上の人物に例えて褒めたたえる一方、暴力や恫喝(どうかつ)を繰り返し、アメとムチで心を支配した。(中村昌史、大渡美咲)
ミニスカートは「霊的に正しい力」
日本有数の高級住宅街、東京・田園調布の一角。奇妙な格好をした集団が出入りする一軒家があった。玄関先に「平岩」の表札。手入れの行き届いた緑が生い茂る2階建ての民家だ。信者への傷害容疑で警視庁捜査1課に逮捕された平岩容疑者と、妻の司容疑者が信者とともに生活をしていた自宅。一見すると、変わった様子は感じられないのだが…。
「たくさんの女性が、パンツの見えそうな短いスカートに、ピンクや黄色のカラータイツをはいて、よく歩いていた。何をやっているのか分からない。とにかく変わった家だった」。近所の女性はこう振り返る。
元信者によると、信者の多くは平岩容疑者の自宅や近くのアパートに住み、集団生活を送っていた。住民からすれば異様なミニスカート姿の集団。
だが、それこそが平岩容疑者が強く推奨した服装だった。
「(ミニスカは)霊的に正しい力がある」
ロマゾフィー協会は平岩容疑者の主宰で平成14年に設立。協会ホームページでは、ヒーリングや除霊などを通して「生きるヒント、生き方、生きることの規範も勉強できる」などとうたっている。都内のほか、北海道や九州などでもセミナーを開催し、講義の告知も掲載されている。
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「平岩容疑者の言葉には不思議な説得力があった。歴史や雑学。とにかく知識が豊富で、それを霊視や除霊と結びつけるのがうまい。人を引きつける勘、人間的な魅力があった」
暴力や恫喝に耐えかねて脱走した元信者は、平岩容疑者の人物像をこう説明する。
代替医療や超能力、霊能力による治療を意味する「ヒーリング」。だが、元信者らの証言によると、平岩夫妻はヒーリングとはかけ離れた行為を繰り返し、信者を追い込んでいった。
「ミニスカートなど、表面上の特異な部分だけが報じられているが不本意だ。私たちは今でも『ロマゾフィー』と聞くだけで身震いがする」。元信者は苦しい胸の内を語る。「平岩容疑者と司容疑者だけでなく、2人の幼い子供までがまねをして信者をたたくこともあった」
元信者の証言では、ミニスカ姿の集団からは想像もつかない修羅場が浮かび上がってくる。
「離れれば死ぬ」“猟奇的”な教団の内情
「私の身に起きたことは一言で説明できない。とにかく猟奇的でした」
元信者の男性(53)は、こう前置きして教団の実態を語り出した。男性は平岩容疑者が協会を立ち上げた前後に出版した「霊的覚醒(かくせい)への道」という著作に感銘を受け、16年に入会した。
「霊的な事柄について書かれた本。私からみると客観的で、非常にバランスの取れた内容だった。この本にひかれ、協会に入り込んでいった人は多い」。当初は平岩容疑者に心酔したという男性。だが、時を経るごとに「凶暴性や異常性があらわになった」。
男性によると、19年ごろから平岩夫妻に「ロマゾフィーを離れれば死ぬ」と脅され、昨年夏ごろから日常的に殴られたり、けられたりするようになった。真冬の玄関で長時間、正座させられ、顔への落書き、ソースやケチャップを頭にかけるなどの暴行も日常茶飯事だった。ただ、当時は「愛情の裏返し」だと感じた。
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暴行に映る行為だが、男性は平岩容疑者が信者の心をつかむ「アメ」と「ムチ」の活用だと表現する。
女性信者に対しては「あなたの前世はマリー・アントワネット」などと褒めたたえて自尊心をくすぐる一方、気に入らない女性には群馬の地名をもじって「お前の名前は『群(ぐん)・馬太郎(うまたろう)』」とあざけったこともある。ほかにも、別の信者が「博多鹿次郎(はかたしかじろう)」とののしられたケースもあり、男性もこうした手口に籠絡(ろうらく)されていったという。
他方、「総師範」や「大師範」などの階級で信者を格付けした。セミナー参加者で高い評価を得た信者らを「月間MVP」として表彰するなど、独特の手法で教団の序列を作り上げていった。オウム真理教と同様に、ヒエラルキーの存在が信者たちを刺激させていったようだ。
21年8月、男性は平岩容疑者が見込んだ信者を自宅に住み込ませる「内弟子」に“昇格”。1日1食で睡眠時間も皆無だったが、平岩容疑者の身の回りの世話や、買い物に駆け回ることを名誉とすら思った。
平岩容疑者はささいな失敗を激しくしかり、信者らに金品をたびたび要求。
「お前らは奴隷」
「お前のせいで退会者が増えた」
「落とし前をつけろ」
男性はこうした文言を浴びせられ現金を渡すよう脅された。男性は結局、勤め先の退職金の多くを“上納”、総額は3千万円にのぼった。
「表面上は絶対に宗教的なものを出さない。セミナーも最初は融和的な雰囲気。ただし、中に入ると恐怖で身動きが取れなくなる。私と同じような目にあった会員はたくさんいる」
恫喝を繰り返し巻き上げた多額の現金。その使途はあまりにも世俗的だったというのだ。
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信者の金で“オタク”の夢実現
「『夢まつり』を開幕します」。今年4月、都内のイベント会場。プロレスリングの上で、羽織はかま姿に刀を携えた平岩容疑者が笑顔で声をあげた。
インターネットの動画掲示板にも掲載された映像。イベントでは「日光ルーサ」と名乗る司容疑者がダンスやプロレスを披露するなど、平岩夫妻独自の“世界観”が前面に押し出されていた。
「イベントは司容疑者の強い希望で開催された。リングにあがるのは、プロレスオタクだった平岩容疑者の夢でもあった」
元信者の男性は、あきれ気味にイベント開催の経緯を説明する。会場の使用料や準備のための費用は信者が賄った。中には、数百万円を平岩容疑者に渡した信者もいたという。
「平岩容疑者の金品の恐喝と、浪費は日常茶飯事。気に入ったプロレスラーが所属する団体のチケットを大量に買ってタニマチを気取ったり、栃木・日光などへの旅行代金に充てたりと、会員から巻き上げた金を好きなように使っていた」(元信者)
一方、平岩容疑者と司容疑者は自主製作で「戦闘ヒロインレジェンド1 ルーサ第1章『勇者の誓い』」と題した映画にも出演。主人公の司容疑者が敵役の平岩容疑者と格闘、ミニスカの司容疑者が胸を踏みつけられながら悶絶(もんぜつ)するシーンもあった。
「自分勝手なイベントや下らない映画も、信者の金を使って撮影したものなんです」
平岩夫妻の逮捕と前後して立ち上げられた「ロマゾフィー協会被害者の会」の元信者の男性は、あきれ顔で語る。
“荒唐無稽”な教団 代表の素顔とは
「普通の人でしたよ。霊的なことなんて、何も言っていなかった。当時はひげがなかったね…」
平岩容疑者の会社員時代を知る人はこう振り返る。平岩容疑者は、都内の大学の日本文化学科を卒業後、共済組合の職員や音楽関係の事務、美術系の出版会社を経て、ロマゾフィー協会を設立した。
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19世紀のドイツの哲学博士、ルドルフ・シュタイナーと「霊界交信をして師事を仰いだ」といい、「霊的見地から見た世界史」「君はガス人間を見たか!」などの著作を出版。協会の設立前後には、すでにスピリチュアル関連のセミナーを開催し、自身の著作を元に、「実在する歴史上の人物と霊界で直接交信した」などと話していたという。
このころ、熱心なセミナー受講者として平岩容疑者に近づいたのが、司容疑者だった。2人はほどなく結婚し、司容疑者は協会の運営に大きな影響力を持つようになったという。
当時、セミナーを受講した男性は「独自の観点から歴史を見ているのがおもしろくて、教育的だった」と語る。霊視や霊能を研究する「セッション」という講座も開いていたが、威圧的な態度はなかったという。だが、平岩容疑者は3年ほど前に豹変(ひょうへん)。突然、「勉強する気がないなら、来なくていい」と、これまで受講していた人々を次々に“クビ”にしたという。
「受講者に平岩容疑者をあがめる人たちが大勢入ってきたときから彼は変わってしまった」と男性は振り返った。
カルト問題に詳しく、被害者の会を支援する渡辺博弁護士は「教会の実情は荒唐無稽(むけい)だが、高校教師など社会的立場のある人もマインドコントロールされた。人生の先行きが見えると、霊的な力を身につけて発揮したいという願望が強くなるのではないか」と話す。
平岩容疑者の逮捕後も施設には明かりがともり、ピンクのカットソーと黒いミニスカート姿の信者とみられる女性が出入りする。女性は「私は関係ありません。警察から荷物を取りに行ってくれと頼まれただけです」とだけ話し、室内に入っていった。警視庁捜査1課は恐喝や強要容疑でも捜査し、謎に包まれた組織の実態解明を進めている。