小学生の筆箱を見せてもらい、鉛筆が「2B」ばかりなのに驚いた。40代の記者にとって、鉛筆と言えば「HB」。小学校時代、それ以外を手にする機会は少なかった。メーカーに聞くと、鉛筆全体の売り上げに占める2Bの割合は半数近くを占め、HBの2倍以上に上るそう。いつの間に、なぜ-。主役交代の背景を探ると、子供の好みの変化だけでなく、大人の鉛筆離れが影響していた。(佐伯竜一)
日本鉛筆工業協同組合(東京)によると、JIS規格では一番硬い「9H」から軟らかい「6B」まで17種あり、「HB」は9Hから11番目で一般筆記用。「2B」は13番目で「濃く軟らかい。なめらかで、疲れずスムーズに長時間書ける」と位置付けられる。
業界大手トンボ鉛筆(同)の1999年の売上比率は、(1)HB43%(2)2B22%(3)B21%-だった。その後、Bは増えてHBは減り、2006年には、(1)2B36%(2)B30%(3)HB26%-と、2BがHBを上回った。そして17年は99年比で2BとHBがほぼ入れ替わり、(1)2B47%(2)HB23%(3)B20%だった。
同社は、小学生に選ばれる理由として、入学時に学校から濃いタイプを勧められ、中高学年でもそのまま使う例が見られるとする。シフトした時期は不明だが、70年代後半には始まっていたとの見方もある。
神戸市北区のありの台小学校で、国語教育に力を入れる岡篤教諭(54)は「低学年が鉛筆で書き初めなどをする場合、濃く太いと、とめ、はね、はらいの見栄えが良い」とする一方、近年の傾向として「鉛筆の持ち方がさまざまになり、力の加減を調節しやすい点などが好まれるのかも」と推測する。
もう一つの理由は大人の鉛筆離れ。同社広報の川崎雅生さん(68)は「80年代以降、ワープロやパソコンが普及し、大人が仕事でも家でもHB鉛筆を使わなくなったことが大きい」とみる。
実際、鉛筆の生産量は減っている。同組合によれば、18年は2億764万本で、輸出も盛んだったピークの66年比で約85%落ち込んだ。この間、児童数は33%減ったにすぎない。
IT化が進めば、授業でも鉛筆は不要では-との声もある。しかし岡さんは「字は目で見て形を理解し、手本をまねて紙に書いて覚える。手書きだから感性や集中力、見分ける力が身につく」と強調する。自身、いまも連絡帳などはHBで書くことが多いという。
同社は鉛筆の利点に、安価で丈夫▽1本で約50キロメートル書けて経済的▽使い方の説明が不要▽削って手入れを学べる▽消して書き直せる-を挙げ、設計やアート、マークシート、選挙、アンケート、災害対策の備蓄、実験など根強い需要があるとする。川崎さんは「国内外で鉛筆の愛好家も現れるなど、製品は多様化している。売り場をのぞいて」と呼び掛ける。
■鉛筆の歴史、あれこれ
日本鉛筆工業協同組合によると、鉛筆の歴史は、1560年代の英国の鉱山で始まった。良質の黒鉛が見つかり、細く切ってひもで巻いたり木にはめ込んだりして、筆記具として使った。1795年にはフランス人が、黒鉛と粘土を混ぜ、焼き固めて芯とする製法を編み出した。
日本では、欧州から徳川家康に献上されたと伝えられる。明治期には輸入され、新政府の伝習生が欧州で製法を学び伝えた。1887年に眞崎鉛筆製造所(現三菱鉛筆)が創業、1913年に小川春之助商店(現トンボ鉛筆)が創立された。
硬度の「H」は「Hard」、「B」は「Black」の頭文字に由来する。HBなら黒鉛7割、粘土3割程度で、黒鉛が多いほど濃く軟らかくなる。