元禄13(1700)年創業で、松坂屋、三越に次ぐ全国3番目の老舗とされる山形市の百貨店「大沼」が苦境に立たされている。4日には、就任間もない新社長が、大沼米沢店(山形県米沢市)の8月15日閉店を決めた。厳しい道のりが続くなか、山形市内の本店では、思わぬ“助っ人”が登場した。
ピーク時の2割
市役所や銀行、裁判所などが並ぶ山形市最大の繁華街、七日町。この町を、ほぼ南北に貫く通り沿いで、ひと際、重厚な建物が目を引く。長年、地域経済を牽引してきた「大沼」だ。
その老舗企業の経営が今、揺れている。再生支援に乗り出した投資ファンドと古参の役職員が、出資金などをめぐり対立。生え抜きの役員らが、ファンド出身の社長らを解任する異例の事態に発展したのだ。
就任したばかりの永瀬孝社長は今月4日、自力再建を目指し、経営スリム化の一環として米沢店を8月15日で閉店すると発表した。今後、服飾雑貨や家庭用品、ギフトなどに規模を縮小し営業を継続する。
永瀬氏は「大沼の環境は依然として厳しい。苦渋の決断をした」と語った。米沢店の売り上げはピークの平成4年時点で約60億円あったが、31年2月期には12億円にまで落ち込んだ。31年3月単月も赤字で、「このままだと赤字幅は拡大することが予想される」(永瀬社長)ための閉店だという。米沢店の従業員47人には同日午前、閉店を告げた。山形店への異動などにより雇用は継続する。
これで大沼は、規模を縮小する米沢店と新庄市の「ギフトショップ新庄店」のほか、百貨店としては山形店のみの経営となる。
消費者の低価格志向や郊外型アウトレットモール、ショッピングセンターなどが台頭するなか、高額品なども扱う地方の百貨店は今後も試練が続きそうだ。
百貨店の灯を消すな
「行政としてできることを検討する」。佐藤孝弘山形市長は3月26日、就任のあいさつに訪れた永瀬社長に支援の意向を表明した。吉村美栄子知事も大沼再建について「県と山形市の顔。どのような支援ができるのか考えたい」と話しており、「山形から百貨店の灯を消すな」は、県内自治体共通の認識となりつつある。
そんな中、老舗のピンチに一役買って出たのが山形市立商業高校の女子生徒たちだ。大沼での買い物を呼びかける自治体の訴えに共感し、「何とがさんなね!(何とかしなければ)」と応援を決めた。
「大沼応援計画」のノボリを掲げた同校の産業調査部、通称「産調ガールズ」の生徒らは5日、消費者の性向を知ろうと、大沼山形店で顧客アンケートを実施。来店客に「大沼には週何回来ますか」「どんなイベントに行きたいですか」「大沼の好きなところ、嫌いなところは」と丁寧に質問した。
山形市の主婦、渡辺敦子さん(64)は「大沼の友の会にも入っており、よく来る。危機だと知り、よく買うようにしている」とアンケートに協力していた。
産調ガールズは、毎年開催される「全国高等学校生徒商業研究発表大会」で2年連続日本一の栄冠に輝いている。市内で開催される大型イベントで「1万人を集めたい」とポスター制作を依頼され、2万人以上を集めたほか、七日町を光で彩るプロジェクションマッピングを企画するなど、まちおこしの実績もある。
顧問の伊藤広幸教頭(54)は「今年度のテーマは行動経済学。市長の訴えを通じて大沼の危機を知った生徒が、今回の企画を思いついた」と説明する。
産調ガールズは今月末までにアンケート結果を分析し、大沼側に具体的な提案をしていく考えだ。産調の部長で、3年生の岡崎美優(みゆう)さんは、「行動経済学の実践になる。アンケートで現状を分析し、いろいろな提案をしていきたい」と話している。(柏崎幸三)