なぜ、広島市民球場は野球コンサート化するのか
知り合いに広島出身の人がいる。その方から、「広島カープ(広島東洋カープ)がたいへんなことになっている」と聞いていた。
「すごい人気でチケットがとれない」
「スタジアムでバーベキューができる席がある」
「ユニホームなどのグッズも大変なブーム」
移転した新しい「広島市民球場」(MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島)は、広島カープの本拠地であり、新幹線から見える。1度は行ってみたいと思っていたところ、先日、広島での仕事の後に、観戦する機会を得た。
試合の前になると、広島駅のコンコースは赤いユニホームを着た人たちであふれる。カップルや、小さな子どもを連れた家族から、おじいさんおばあさんまで、さまざまな年齢層の方々が、球場を目指して歩いている。
ユニホームを着て、応援グッズを持っている方がとても多いので、なんとも言えない一体感がある。まるで、これから人気アーティストのコンサートに向かうかのようだ。
球場に着くと、スタジアムが真っ赤に染まっている。試合開始前から、大いに盛り上がる。
今の広島市民球場は、大リーグの球場を参考につくられたのだという。アメリカ風の「ボールパーク」を、さらに日本的にこまやかな配慮をして進化させたもの。そのつくりは、なるほどと感心させられることが多かった。
内野、外野の境なく、ぐるりと球場を一周できる幅の広い回廊があることも、特徴の1つ。試合の途中で私たちも回ってみたが、ゆったりと歩いていく中、売店を見たり、変わっていく景色を眺めたりするのが楽しい。試合が盛り上がって、ヒットが出たりすると、その場で観戦ができるのも優れている。実際、もともとの自分たちの席とは関係なく、さまざまな場所で立ち見をしている方々を多く見た。
経済が停滞し人口減に悩む現代ニッポンの「奇跡」
噂のバーベキューができる席だけでなく、多種多様のユニークな座席がある。たとえば、寝そべって見られるエリアや、仲間たちと宴会のようなことをしながら試合観戦ができるシート、さらに、グラウンドと同じ高さで、迫力あるシーンが楽しめる砂かぶり席など。子どもたちのための遊びのエリアもあって、私が訪れた日は、恐竜ロボットに乗ったり、すべり台で楽しんだりしていた。
もちろん、ずっと自分の座席で熱心に応援されている方々もいる。試合展開が白熱すると、皆、選手たちのプレーに釘付けになる。
その一方で、「ボールパーク」の名にふさわしく、みんながそれぞれの時間を楽しめる「公園」になっていることに、大いに感心した。
関東や関西に比べて、地域人口が少ない広島周辺で、チケットが毎試合売り切れの人気の秘密がわかったように思った。
まずは、「楽しめるイベント」としての充実。多様なスタジアム設計や、ゆったりとした時間や空間の演出によって、伝統的な野球を超えた、「野球コンサート」とでもいうべきエンタメに進化している。そして、多くの人がユニホームを着ることによる一体感。毎試合、自分が「共同体」の一員であることを確認できる熱い「祭り」になっている。
広島カープの試合を中継する地元のテレビ局の視聴率は、大変高い数字を記録しているのだという。
経済が停滞し、人口減に悩む地域が多い時代、「広島カープの奇跡」に学ぶべきことは多いと感じた。
(写真=AFLO)