ステンレスねじ業界で国内トップクラスの生産量を誇る静岡市清水区のメーカー「興津螺旋(おきつらせん)」で、女性のねじ職人が次々と誕生して11人を数え、話題になっている。その名も「ねじガール」。ものづくりの世界に魅了され、自ら志願して男性が中心だった職場に飛び込んだ。【古川幸奈】
5月中旬、同社会議室に今年度の新入社員8人が集まった。新卒4人、中途4人で全員女性。配属は、本人の希望や適性などに応じ替わる。同社の柿沢宏一社長(45)は「女性だからと君たちを採用したわけではない。実力で選ばれたのだから自信を持って」と激励。辞令が手渡されると、表情を引き締めた。
同社は、全社員約80人のうち5割強が女性で、ねじ製造に携わる技術職の中でも約3分の1を占めるまでになった。事務職に女性はいたが、加工工場での作業は男性だけだった。だが、2012年に事務職として採用された佐野瑠美さん(28)が「ねじの製造をやってみたい」と志願したことが転機になった。
「毎年優秀な女性が入社試験を受けてくれるのに働ける場は限定的。多く採用できないという歯がゆさがあった」と柿沢社長。次第に女性の就職希望者が増え始め、ちょうど社内でも女性の働き方について議論が始まった頃だった。「渡りに船ではないか」。柿沢社長は、佐野さんに小さなマイクロねじの頭部分を製造する設備を任せた。佐野さんは「ものづくりは未知の世界で目にするもの全てが新鮮だった。自分の手で製品を作るのが楽しくてもっと続けたいと思った」と話す。
柿沢社長は「女性の社会進出や働き方改革を後押ししようという考えは特になかった」と言うが、採用を続けるうちに自然と女性が増えた。均衡を保つために男性を増やすことも考えたが「げたを履かせてとるのは今までの採用がうそになる」という結論に至った。
現場は、女性でも力の必要な作業ができるよう、工具を工夫。社内制度では、1時間単位の有給休暇取得を可能にし、定期的に部署などを変える「ジョブローテーション」も導入し、柔軟な仕組みを整えている。男性社員も「女性に負けていられない」と奮起し、全体的な技術の底上げにもつながり、不良廃棄率は過去3年で半減したという。佐野さんは「今は仲間がたくさんいる。これからも一緒に良い製品を作っていきたい」と意気込む。