無灯火・スマホで高額賠償 自転車事故の怖い結末
2018/04/12 11:001 / 3 ページ
© NIKKEI STYLE 年間10万件近い自転車事故が起きており、死者も出ている=PIXTACase:30 雨の日の夜、無灯火で走ってきた自転車に衝突され、脚を骨折してしまいました。治療費はもちろん、休業損害などもしてもらえるでしょうか。
何を隠そう、私も自転車事故の被害者になった経験があります。雨の日の夜、タクシーを降りた瞬間、傘をさしながら走ってきた自転車に衝突されました。幸い、たいした怪我ではありませんでしたが、受けた衝撃はいまだに覚えています。
自転車は手軽で便利な乗り物であり、大人から子供まで幅広く利用されていますが、統計によれば年間10万件近い事故が起こっており、死亡事故も何件か報告されています。
■自転車、法的には「軽車両」
自転車は道路交通法上、「軽車両」に分類されるので、歩道と車道の区別のあるところでは自転車は車道を通行するのが原則となります。歩道はあくまで歩行者優先です。歩道に「自転車通行可」や「普通自転車通行指定部分」の道路標識や道路標示が設けられている場合、歩道の通行はできますが、歩行者の妨げとなる場合は一時停止する必要があります。
どうです? かなり厳しいですよね。残念ながらほとんど守られているとは言い難い状況で、狭い歩道でも歩行者の横を縫うように疾走する自転車も少なくありません。
2015年6月から改正道路交通法が施行され、「自転車運転者講習制度」が始まりました。信号無視、スマートフォン(スマホ)などの「ながら運転」など、危険な自転車運転をして違反を3年内に2回以上した場合、講習を受けなければならないと定めています。
制度が施行された直後は「警察の取り締まりが厳しい」という声が聞かれましたが、今はどうでしょうか。私の印象だけかもしれませんが、最近は警察に止められている自転車を見たことがありません。
■民事上の責任、被害者側が立証
自動車事故の場合、運転者には自動車損害賠償保障法(自賠法)という特別法があり、運転者側で過失がなかったことを証明できない限り、損害賠償義務を免れることができません。しかし自転車事故の場合、自賠法が適用されませんので、民法の不法行為の規定に基づき被害者の側で自転車運転者に過失があったことを証明する必要があります。
無灯火・スマホで高額賠償 自転車事故の怖い結末
2018/04/12 11:00
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© NIKKEI STYLE 年間10万件近い自転車事故が起きており、死者も出ている=PIXTA Case:30 雨の日の夜、無灯火で走ってきた自転車に衝突され、脚を骨折してしまいました。治療費はもちろん、休業損害などもしてもらえるでしょうか。
何を隠そう、私も自転車事故の被害者になった経験があります。雨の日の夜、タクシーを降りた瞬間、傘をさしながら走ってきた自転車に衝突されました。幸い、たいした怪我ではありませんでしたが、受けた衝撃はいまだに覚えています。
自転車は手軽で便利な乗り物であり、大人から子供まで幅広く利用されていますが、統計によれば年間10万件近い事故が起こっており、死亡事故も何件か報告されています。
■自転車、法的には「軽車両」
自転車は道路交通法上、「軽車両」に分類されるので、歩道と車道の区別のあるところでは自転車は車道を通行するのが原則となります。歩道はあくまで歩行者優先です。歩道に「自転車通行可」や「普通自転車通行指定部分」の道路標識や道路標示が設けられている場合、歩道の通行はできますが、歩行者の妨げとなる場合は一時停止する必要があります。
どうです? かなり厳しいですよね。残念ながらほとんど守られているとは言い難い状況で、狭い歩道でも歩行者の横を縫うように疾走する自転車も少なくありません。
2015年6月から改正道路交通法が施行され、「自転車運転者講習制度」が始まりました。信号無視、スマートフォン(スマホ)などの「ながら運転」など、危険な自転車運転をして違反を3年内に2回以上した場合、講習を受けなければならないと定めています。
制度が施行された直後は「警察の取り締まりが厳しい」という声が聞かれましたが、今はどうでしょうか。私の印象だけかもしれませんが、最近は警察に止められている自転車を見たことがありません。
■民事上の責任、被害者側が立証
自動車事故の場合、運転者には自動車損害賠償保障法(自賠法)という特別法があり、運転者側で過失がなかったことを証明できない限り、損害賠償義務を免れることができません。しかし自転車事故の場合、自賠法が適用されませんので、民法の不法行為の規定に基づき被害者の側で自転車運転者に過失があったことを証明する必要があります。
事故の態様によっては過失の立証が難しい場合もあるかもしれませんが、相談のケースのように自転車の運転者が雨の日に無灯火で走行していたのであれば、運転者の過失が十分認定できると思われます。
請求できる損害は、自動車事故などとほぼ同じ考え方になります。つまり、病院での治療費や入院にかかった雑費、休業損害、入通院への慰謝料、後遺障害が残った場合には後遺障害慰謝料、逸失利益などが請求できます。また、不幸にして死亡した場合には死亡慰謝料も請求できます。時としてかなりの高額になるのは自動車事故の場合と同じです。
■高額賠償命じる判決相次ぐ
事故当時小学校5年生だった少年が乗った自転車が下り坂で歩行者と衝突した事故の損害賠償訴訟で、少年を監督する母親に1億円近い高額賠償が命じられたケースがあります。被害者の女性は事故の影響で意識が戻らず寝たきりとなりました。逸失利益や後遺障害慰謝料に加え、将来の介護費が4000万円近く認定されています。
また、携帯電話を操作しながら無灯火で自転車を運転していた女子高校生が女性に追突、被害者の女性が歩行困難になって看護師の職を失ったという事案で、女子高生に約5000万円の支払いを命じた判例もあります。
さらに最近では左手にスマホ、ハンドルに添えた右手に飲料カップを持ち、左耳にイヤホンをしてスマホをいじりながら自転車を運転していて高齢女性に衝突し、死亡させた女子大生が書類送検されたというニュースがありました。刑事事件しか報じられていませんが、民事でも相当な高額賠償が命じられるのは確実かと思われます。
■賠償義務、破産しても免責されない場合も
数千万円単位の高額賠償を命じられても、自動車事故では運転者には自賠責保険の契約が義務づけられ、ほとんどの運転者は任意保険にも加入していますので、運転者に資力がなくても保険会社から賠償金を受けとることができます。一方、自転車は法律で保険加入が義務づけられているわけではないので、加害者に支払い能力がなく、損害が補填されない場合も少なくありません。
無灯火・スマホで高額賠償 自転車事故の怖い結末
2018/04/12 11:00
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© NIKKEI STYLE 年間10万件近い自転車事故が起きており、死者も出ている=PIXTA Case:30 雨の日の夜、無灯火で走ってきた自転車に衝突され、脚を骨折してしまいました。治療費はもちろん、休業損害などもしてもらえるでしょうか。
何を隠そう、私も自転車事故の被害者になった経験があります。雨の日の夜、タクシーを降りた瞬間、傘をさしながら走ってきた自転車に衝突されました。幸い、たいした怪我ではありませんでしたが、受けた衝撃はいまだに覚えています。
自転車は手軽で便利な乗り物であり、大人から子供まで幅広く利用されていますが、統計によれば年間10万件近い事故が起こっており、死亡事故も何件か報告されています。
■自転車、法的には「軽車両」
自転車は道路交通法上、「軽車両」に分類されるので、歩道と車道の区別のあるところでは自転車は車道を通行するのが原則となります。歩道はあくまで歩行者優先です。歩道に「自転車通行可」や「普通自転車通行指定部分」の道路標識や道路標示が設けられている場合、歩道の通行はできますが、歩行者の妨げとなる場合は一時停止する必要があります。
どうです? かなり厳しいですよね。残念ながらほとんど守られているとは言い難い状況で、狭い歩道でも歩行者の横を縫うように疾走する自転車も少なくありません。
2015年6月から改正道路交通法が施行され、「自転車運転者講習制度」が始まりました。信号無視、スマートフォン(スマホ)などの「ながら運転」など、危険な自転車運転をして違反を3年内に2回以上した場合、講習を受けなければならないと定めています。
制度が施行された直後は「警察の取り締まりが厳しい」という声が聞かれましたが、今はどうでしょうか。私の印象だけかもしれませんが、最近は警察に止められている自転車を見たことがありません。
■民事上の責任、被害者側が立証
自動車事故の場合、運転者には自動車損害賠償保障法(自賠法)という特別法があり、運転者側で過失がなかったことを証明できない限り、損害賠償義務を免れることができません。しかし自転車事故の場合、自賠法が適用されませんので、民法の不法行為の規定に基づき被害者の側で自転車運転者に過失があったことを証明する必要があります。
事故の態様によっては過失の立証が難しい場合もあるかもしれませんが、相談のケースのように自転車の運転者が雨の日に無灯火で走行していたのであれば、運転者の過失が十分認定できると思われます。
請求できる損害は、自動車事故などとほぼ同じ考え方になります。つまり、病院での治療費や入院にかかった雑費、休業損害、入通院への慰謝料、後遺障害が残った場合には後遺障害慰謝料、逸失利益などが請求できます。また、不幸にして死亡した場合には死亡慰謝料も請求できます。時としてかなりの高額になるのは自動車事故の場合と同じです。
■高額賠償命じる判決相次ぐ
事故当時小学校5年生だった少年が乗った自転車が下り坂で歩行者と衝突した事故の損害賠償訴訟で、少年を監督する母親に1億円近い高額賠償が命じられたケースがあります。被害者の女性は事故の影響で意識が戻らず寝たきりとなりました。逸失利益や後遺障害慰謝料に加え、将来の介護費が4000万円近く認定されています。
また、携帯電話を操作しながら無灯火で自転車を運転していた女子高校生が女性に追突、被害者の女性が歩行困難になって看護師の職を失ったという事案で、女子高生に約5000万円の支払いを命じた判例もあります。
さらに最近では左手にスマホ、ハンドルに添えた右手に飲料カップを持ち、左耳にイヤホンをしてスマホをいじりながら自転車を運転していて高齢女性に衝突し、死亡させた女子大生が書類送検されたというニュースがありました。刑事事件しか報じられていませんが、民事でも相当な高額賠償が命じられるのは確実かと思われます。
■賠償義務、破産しても免責されない場合も
数千万円単位の高額賠償を命じられても、自動車事故では運転者には自賠責保険の契約が義務づけられ、ほとんどの運転者は任意保険にも加入していますので、運転者に資力がなくても保険会社から賠償金を受けとることができます。一方、自転車は法律で保険加入が義務づけられているわけではないので、加害者に支払い能力がなく、損害が補填されない場合も少なくありません。
高額賠償を命じられた運転者側は賠償金を払いきれず自己破産することもあるようです。しかし、自己破産だけで支払い義務が消滅するわけではありません。裁判所から免責の許可を受けて初めて支払い義務がなくなります。
破産法では「故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」は免責されないと規定しており、自転車事故により生じた損害賠償債権がこれに当たるかどうかが問題になります。
免責許可が出る場合もあるようですが、最近の判例では、夜間の歩道上を無灯火かつ時速25~30キロで走行する自転車が歩行者に正面から衝突した事案について「故意に比肩する程度に重い過失」と認定し、免責を認めませんでした。このため、過失の内容次第では自己破産しても免責許可が受けられず、一生支払い義務を負うケースもありうるのです。
■保険締結、義務化の動き
最近、高額の損害賠償に備えるため自ら保険に加入する人も増えてきました。また、兵庫県や大阪府などはいち早く自転車賠償責任保険の締結を義務付けました。関東では埼玉県で18年4月から義務化されました(もっとも、違反者に罰則が課されるわけではありません)。個人の資力では高額賠償に対応するのは限界があり、被害者保護の観点からも自転車賠償責任保険の締結がすべての自治体で義務化されるべきだと考えています。
志賀剛一
© NIKKEI STYLE 志賀・飯田・岡田法律事務所所長。1961年生まれ、名古屋市出身。89年、東京弁護士会に登録。2001年港区虎ノ門に現事務所を設立。民・商事事件を中心に企業から個人まで幅広い事件を取り扱う。難しい言葉を使わず、わかりやすく説明することを心掛けている。08~11年は司法研修所の民事弁護教官として後進の指導も担当。趣味は「馬券派ではないロマン派の競馬」とラーメン食べ歩き。