米国にとって2018年は、東西冷戦の終結以来、他国との戦争の危険が最も高くなる年である。最も切迫した脅威は北朝鮮であり、中長期的には中国とロシアからの挑戦が戦争の脅威を高めている――。
米国のトランプ政権がこうした脅威の認識を持っていることが明らかにされた。そのなかでは、北朝鮮が核兵器以外の通常戦力を強化し、日本にとっての危険性を高めている点も強調された。
冷戦終結以来、最も高くなった国家間衝突の危険性
このトランプ政権の脅威の認識は、2月中旬に米国議会上院情報特別委員会が開いた公聴会で、同政権の情報諸機関を代表するダン・コーツ国家情報長官によって発表された。
「世界規模の脅威」と題された同公聴会には、同国家情報長官をはじめ中央情報局(CIA)、国家安全保障局(NSA)、国防情報局(DIA)、連邦捜査局(FBI)など主要情報諜報機関のトップがすべて出席し、証言した。
その総括役を務めたコーツ長官は、「米国情報諸機関による世界規模の脅威評価」と題する報告書の内容を証言として公表した。この報告書は米国にとっての外部からの脅威を包括的に評価しており、トランプ政権の公式の全世界脅威観とも呼べる。
コーツ長官ははまず世界の現状として、「2018年の現在、大国同士を含む国家間の衝突の危険性は東西冷戦の終結以来、最も高くなっている」と総括した。
その背景には、米国が対外政策の優先順位を見直したことで、複雑な国際潮流が新たに生じていることが挙げられる。その機に乗じて、一部の主要国や侵略性の高い国が自国の野望を追求しようとしているのだという。
既存の国際秩序を覆そうとする中国とロシア
同長官はそのうえで「本年の地域的な国家間の衝突の最も切迫した脅威は北朝鮮から発せられている」と断言した。
さらに、米国にとっての中長期的なより大きな脅威として中国とロシアを挙げた。両国は、大量破壊兵器や、サイバー攻撃能力の大幅な増強などをテコにして、米国主導の既成の国際秩序を覆そうと目論んでいるという。
同長官は中国とロシアの脅威について以下のような内容を述べた。
・中国とロシアは自国の影響力を国際的に広げ、米国の国際的な影響力を減らそうと意図している。そのために、米国の同盟国や友好国の米国に対する不信をあおり、対米政策を変えさせようと企図している。
・中国とロシアはこの野望の実現のために軍事力を含むあらゆるパワーを使い、国際社会の年来の体制と安定を崩し、国際秩序を侵食しようとしている。特に安全保障面における従来の米国主導の同盟関係を崩して、新たなパワーブロックを結成しようと図っている。
・中国は、防御能力の高い地上移動用と地下サイロ格納用の戦略核ミサイルを大幅に増強している。中国軍は、核弾道ミサイル搭載の潜水艦JL2の開発を進めながら、同様の核ミサイルを装備する原子力潜水艦JIN級の追加建設も急いでいる。これらの動きによって核戦力面での米国への脅威が高まる。
米国を脅かす北朝鮮の弾道ミサイル
一方、切迫した脅威である北朝鮮の動向については、以下のように指摘した。
・2018年、北朝鮮は、米国にとって最も予測困難で敵対性の高い大量破壊兵器の脅威を突きつけている。イランやシリアへの弾道ミサイル技術の輸出、シリアの核施設への支援といった北朝鮮のこれまでの行動は、大量破壊兵器を国際的に拡散し、危険を広げる国家の本質を証明している。
・北朝鮮は2017年だけでも、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含む弾道ミサイルの実験発射を頻繁に断行した。特に米国への直接の脅威となる核弾頭搭載の長距離弾道ミサイルの開発を宣言する一方、第6回目の核実験を実行し、米国への直接的な軍事攻撃能力を誇示している。
・北朝鮮は、核兵器以外の化学兵器、細菌兵器という大量破壊兵器も保有している。それらの兵器を背景にした威嚇や、国際的な合意や規則の否定、好戦的な言動、サイバー攻撃能力の強化などは、北朝鮮内部の不安定さも加わって米国の国家安全保障にとって切迫した脅威となっている。
コーツ長官は、米国や国際社会にとっての北朝鮮の切迫した脅威を以上のように説明した。
核兵器以外の通常兵器も増強する北朝鮮
同時にコーツ長官は、北朝鮮が核兵器などの大量破壊兵器だけではなく非核の通常兵器も増強しており、その結果、日本や韓国への軍事的脅威が高まっていることも強調した。骨子は以下の通りである。
・北朝鮮の通常戦力能力の近代化による改善は、日本と韓国にとって深刻な脅威となり続けている。北朝鮮の軍隊は多数の欠陥を内包しているが、金正恩委員長は通常戦力による攻撃手段も拡大し続ける動きをみせている。
・その内容は、通常兵器部隊の訓練の合理化、中・長距離砲の改善、短距離弾道ミサイルの強化などである。いずれも韓国や日本の軍事拠点、日韓領内の米軍基地を速やかに攻撃することを目的としている。
コーツ長官のこの指摘は、北朝鮮の核兵器以外の戦力の攻撃目標に日本も含まれているという現実として、日本側も真剣に受け止めておくべきだろう。