中国人観光客がイオンモールで購入する意外な商品
28.06.09.
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中国人観光客がイオンモールで購入する意外な商品: イオンモール常滑にそびえ立つ高さ約7mの日本最大級の招き猫© diamond
中国の旧正月である「春節」。毎年2月の上旬から中旬にかけ、日本各地に多くの中国人観光客が訪れ、観光地だけでなく「免税」を実施する各商業店舗でも賑わいを見せています。
この連載では、これから数回に渡って、中国のインターネット上で検索される日本に関係するキーワードとインバウンドの最前線で実施されている企業の施策との相関性について、企業現場担当者の声を交えてリポートしていきます。
今回は日本全国にショッピングモール事業を展開するイオンモールを訪問し、店舗で行われているインバウンド向け施策やその手応えについてお話を伺いました。
なぜイオンモール常滑には“巨大な招き猫”が鎮座するのか
今回話を伺ったのは、イオンモール株式会社でインバウンド推進グループのマネジャーを務める趙明さん。イオンモールといえば、現在日本各地にショッピングモールを展開し、最近では「イオンモール沖縄ライカム」といった商業施設の枠を超えた、文化交流の場を提供する新型のリゾートモールも展開している。
――イオンモールがインバウンドに取り組むようになったきっかけはなんだったのですか?
「まだ“インバウンド”という言葉が定着する以前から、外国人観光客への対応は行っていました。千葉県成田市にある『イオンモール成田』が空港に近いこともあって、観光客だけでなく、客室乗務員を含めた航空関係者も買い物に来てくださいました。
そういった方々への対応を行っていくうちに、ノウハウが自然と溜まっていき、2008年に中国人観光客の決済手段の一つである銀聯カードが日本で利用可能になったことを機に、成田をはじめ同じように空港近隣に位置する大阪府の『イオンモールりんくう泉南』や、福岡県の『イオンモール福岡』においても決済設備を導入するなど、いち早く外国人観光客への対応を進めてきました。さらに2010年7月には中国のビザ発給要件の緩和があり、会社の成長戦略の一つの施策として取り組んでいくことになりました」
そんなイオンモールは、観光に関する情報発信にも力を入れているのだという。
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中国人観光客がイオンモールで購入する意外な商品: イオンモール常滑にそびえ立つ高さ約7mの日本最大級の招き猫
「我々もインバウンドのお客さまに対しては、観光資源のPRが必要だと認識しています。ですから、店舗展開と観光をわかりやすい表現でまとめ、キーワード化し、パッケージを作って情報発信を行っています」
――最近の検索におけるトレンドを見ていると東京や大阪といった都市圏だけでなく、地方の名前も頻繁に挙がってきます。
「そういった背景もあるので、単に情報の発信を行うだけでなく、店舗のある地域自治体の協力を経て、地域の魅力を広めています。
例えば、愛知県の常滑市にある“イオンモール常滑”では、巨大な招き猫をモール内に置いています。これは常滑が招き猫の生産量日本一であることに由来しているのですが、この取り組みも自治体の協力があってこそ実現しているものです。我々の目標はイオンモールを買い物だけでなく、地域の情報発信に役立つような場所にし、地域の魅力をより高めるための一員として一緒に地元を盛り上げ、そして観光客の方に『またあの場所に行きたい』と思ってもらうことなのです。
――地域の魅力を高めるショッピングセンターという考え方は、地元にも観光客にも支持され、地域活性と来店の動機になりそうですね!
UFOキャッチャー、プリクラ「ゲーセン」を外国人にも楽しんでもらいたい!
インバウンドで訪れる観光客にとって、日本での買い物は非常に重要な機会になっている。実際に接客を行う現場ではどのようなインバウンド施策を行っているのだろうか。
――最近は買い物に関連した検索ワードでいうと、服のサイズなどを計る「サイズ表」が伸びているのですが、イオンモールの現場ではそういった課題をクリアするために多言語対応以外に行っていることはありますか?
「イオンモールでは、指差しのツールを使って対応を行っています。このツールでは免税の手続きやサイズなどの記載、飲食店での受付の際に使う言葉が載っています」
――この表は現場からの声がきっかけで作られているのですか?
「そうですね。運営側としても、お客様の声を収集するだけでなく、実際に対応する現場からの意見も反映して、こういったツールを開発しています。一方で業種によってはもっと細かい単語を反映した物が欲しいとの声が挙がっているので、今後は業種別のシートを作っていきたいと思っています」
最近は、買い物や飲食だけでなく、意外なサービスにも言語対応の需要があるのだという。
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中国人観光客がイオンモールで購入する意外な商品: イオンモール常滑にそびえ立つ高さ約7mの日本最大級の招き猫
「最近はネイルサロンやゲームセンター、映画館といった場所でも、インバウンド対応の需要が高まっています。特にゲームセンターにおいては、UFOキャッチャーなどといった日本でしか楽しめないものを目当てにいらっしゃるお客さまが実に多いのです。我々のチームも正直な話、ゲーセンでインバウンド対応を行うつもりはなかったのですが、ある現場ではたくさんの外国からのお客さまが来ているので、遊び方などの説明を外国語で対応をしたいという声が挙がってきたものですから、じゃあ一緒にインバウンド整備もやっていかないといけないよねということで、コインの入れ方だったり、ゲーム機の使い方だったりそういうものをポップなどに落としこんで、対応しています」
――日本にしかないサービスという視線と海外で人気の日本のアニメコンテンツという意味ではゲームセンターはまさに理論通りかもしれませんね!
トレンドは家電から日用品へ?対策から見えた外国人観光客の真の姿
イオンモールでは、一定金額以上の買い物をしたお客さまに対して、クーポンやポイントではなく、日本製の「お箸」をプレゼントする施策を行ってきた。それは一体なぜなのか。
「実は我々も当初はお買い物券による割引を行っていたのですが、現場からお買い物券を差し上げてもあまりお客さまに喜んでいただけなかったという意見が挙がってきました。そこで、今年の春節ではお箸をプレゼントする施策に切り替えたのです」
――誰でも使える割引金券から、たくさんお買い物をしてくれた方により良いサービスを提供する、いい意味での選択と集中ですね。お箸もかなり質の良いものを用意されたと伺っています。
「お買い物券をお渡しするよりは、日本らしさを感じるデザインにしたお箸をお渡しすることで、お客さまの中でいい思い出にしていただきたいという思いで、イオンモールからのささやかなプレゼントとして、お渡しする形になりました」
――この箸のような貴重な工芸品は、インターネット上での口コミ(ソーシャル)対策としても大きく拡散しそうですし、さらにそれが検索される、いい循環を生みそうですね。
インバウンド対策において、今のトレンドを把握し「顧客が本当に求めるサービス」を提供しつづけているイオンモール。そして、インターネットの検索エンジンから得られたデータも、サービスの提供を行う上で非常に役立っているのだという。
「良いモールを作っていく上で、インターネット検索のデータは非常に重要な役割を担っています。そこからは我々が想像し得なかった需要などを導き出すことができます。例えば、地名の検索データなどは、モールにおけるインバウンド対応を地方に展開していく上ではとても役立っています。
またトレンドを追いかけるという意味でも、検索データは非常に価値があります。以前のインバウンドの買い物というのは、電化製品や日本色の強い商品をたくさん買っていく傾向がありましたが、だんだん日用品にシフトしている傾向にあります」
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中国人観光客がイオンモールで購入する意外な商品: イオンモール常滑にそびえ立つ高さ約7mの日本最大級の招き猫
――具体的にどのような商品が購入されているのですが?
「それこそ最近は、洋服やバッグなどファッション関係の商品だったり、サービスでいうと先ほども申し上げたネイルサロンなど、日本人のリアルなファッションを取り入れたいというお客さまが増えています。トレンド自体もリアルな日本を感じたいという方向にシフトしているのは間違いないのだろうと思います」
――なるほど、伝統的な日本がある一方でリアルな日本も体験したいということですね。お客さまにサービスを展開する上においてもデータの活用は欠かせなくなっていると。
「そうですね。良いモールを作っていく上では、お客さまへの対応、現場からのフィードバックに対する対策、そしてトレンドを追いかけていくことが必要だと思っています。そういった意味でも、運用のルールを定めるだけでなく、さまざまな声に応えていく必要があるのだと考えています」
――インバウンド用のホームページは、単なる日本語ページの翻訳ではなく、中国人旅行者向けコンテンツ、英語は英語圏旅行者向けコンテンツと言語別に分けていらっしゃいます。海外のまだ見ぬお客さまに対しても情報発信を大切にしている事がすごく伝わってきます。
インバウンド向けショッピングの最前線に立つイオンモール。その現場から見えてきたのは、効果的なインバウンド対策には、言語の対応だけでなくデータをもとにしたマーケティングが必要ということだ。その原点は、各地域の一員として地域貢献を果たすという思い、訪日外国人に日本にまた来たいと思ってもらいたいという思いがあった。
今後、インバウンドの対策を行っていくうえで重要になってくるのが、トレンドのデータだ。次回記事では、中国でも人気を博している「あの企業」のインバウンド対策についてレポートする。