【岡田敏一のエンタメよもやま話】
透ける乳首、アンダーヘア、爆乳…世界の「マネキン」が自己主張、エロチックにリアル進化する“理由”とは
2014.2.16 07:00 (1/5ページ)[westライフ]
米ニューヨークのマンハッタンに登場した乳首が透け、アンダーヘアがはみ出たシースルーの下着姿のマネキン人形。大西洋を越え、英国でもデイリー・テレグラフなどが報じ、物議を醸し出している…
さて、今回ご紹介するエンターテインメントは、本コラム初のファッション・アパレル系のお話です。
最近、欧米では、アパレルショップなどのショーウインドーに立っているマネキン人形がどんどん進化を遂げ、いろんな意味で本物の人間っぽくなり、物議を醸しているというのです。
そもそもは、ニューヨーク・マンハッタンのとある衣料品店に登場したマネキンがきっかけでした。
真面目に“ボーボー”…法律で「リアルに」
米CBSテレビや米紙ニューヨーク・デーリー・ニューズ(いずれも電子版)などが1月17日に報じていますが、米大手カジュアル衣料品チェーン、アメリカンアパレル(本社・ロサンゼルス)のハウストン・ストリート沿いにある店舗のショーウインドーに、乳首がリアルに透け、アンダーヘアがはみ出ているシースルーの下着姿の女性のマネキン人形3体が登場したのです。
このお店があるハウントン・ストリートは、芸術家など比較的リベラルな考えの都会人が多く住むローワー・イーストサイドにあるのですが、さすがに地域住民もけっこう驚いたようです。普通はちゃんとむだ毛処理する部分がボーボーのマネキン人形ですからね。
建設作業員のアリ・モハメッドさん(55)は前述のAP通信に「(通行人の目を引く)素晴らしいアイデアだ」と驚嘆し、ウェブ開発者のエリック・チューさん(33)は1月18日付フランス通信(AFP)に「インパクトが強すぎで、思わず立ち止まって何枚も写真を撮ってしまったよ」と興奮気味に答えました。また保険ブローカーのマーク・マンガーノさん(41)は「ほとんどの女性は、下の方はもう少し剃(そ)るだろうに」と、あきれ顔…。
しかし、喜んでいるのは男性だけのようで、アリソン・バーマンさん(19)は前述のAP通信に「あまりにもリアル過ぎると思うわ」と不快感を示し、別の地域住民は「性的なものを感じますね」と否定的にとらえました。
これらのマネキン人形、2月14日のバレンタイン商戦を盛り上げようと企画した広告キャンペーンの一環だそうですが、このアメリカンアパレルという会社、これまでにも性的に相当きわどいポーズを取る女性の広告ポスターや、61歳の女性を広告モデルに使うなど、センセーショナルな広告戦略を展開することで知られています。
“ボーボー”セイコウ、客3割増…世界一の美女の国は爆乳、英国は“ぷに子”
透ける乳首、アンダーヘア、爆乳…世界の「マネキン」が自己主張、エロチックにリアル進化する“理由”とは
2014.2.16 07:00 (2/5ページ)[westライフ]
米ニューヨークのマンハッタンに登場した乳首が透け、アンダーヘアがはみ出たシースルーの下着姿のマネキン人形。大西洋を越え、英国でもデイリー・テレグラフなどが報じ、物議を醸し出している…
つまり今回のマネキン人形も“確信犯”なわけですが、このマネキン人形を担当した同社のクリエーティブ・ディレクター、アイリス・アロンゾさんは前述のAFPに「通行人に女性の自然で快適なフォームやセクシーというものの概念を探求してもらうとともに、今シーズンのわれわれの一押しアイテムを試着してもらえたらと考えています」と説明しました。
同社の広報担当、ライアン・ホリデー氏によると、このマネキン人形が登場して以来、このお店の来店客数はマネキン人形の登場前より約3割もアップしたといいます。
この一件が報道されて以来、最近欧米で急増する“リアルマネキン人形”問題が一気に盛り上がったのです。そして、そんな数々の“リアルマネキン人形”について、1月19日付米海外ニュース専門サイト、グローバル・ポストが興味深いまとめ記事を掲載していました。要は、ニューヨークの“ボーボーマネキン”以外にも“リアルマネキン人形”はたくさんあるという内容です。
女性の「美」は、国の基幹
まずは南米ベネズエラ。こちらは“爆乳マネキン”です。昨年11月6日付米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)も報じていますが、ショッピング・モールのショーウインドーに立つそのマネキンは、ハチのようにくびれた腰に細長い足、そしてそれらとは全く不釣り合いな大き過ぎるバストという一種、異様なスタイルです。
とはいえ、これには確固たる理由があるのです。1970年代から80年代にかけて、ベネズエラ代表がミスユニバースで3回、女王の栄冠を勝ち取りました。その結果、国際舞台でベネズエラが大きく注目され、国家の基幹産業である石油の輸出とともに、女性の美しさも国の存在感を示す重要な要素であるとの認識が国中の女性に定着したのです。
美女のレベル高すぎ「わが国の巨乳、反映を」…巨デブ?16号・XL登場
透ける乳首、アンダーヘア、爆乳…世界の「マネキン」が自己主張、エロチックにリアル進化する“理由”とは
2014.2.16 07:00 (3/5ページ)[westライフ]
米ニューヨークのマンハッタンに登場した乳首が透け、アンダーヘアがはみ出たシースルーの下着姿のマネキン人形。大西洋を越え、英国でもデイリー・テレグラフなどが報じ、物議を醸し出している…
ところがこの“美しくなりたい”という願望が近年、過熱。労働者階級の女性たちの間で豊胸に代表される整形手術が異常なブームとなり、ここ2年で、無免許の医者による引き締まったヒップラインになるための整形手術で複数の女性が死亡する深刻な事例も出ています。
反米路線で知られ、昨年3月に亡くなったウゴ・チャベス前大統領も、貧しい女性が豊胸手術に大金を費やすことについて「奇怪だ」と強く非難しました。
豊胸に代表される整形手術が女性たちの間で空前のブームとなる南米ベネズエラに登場した“爆乳マネキン”。国の女性の美意識を具現化する存在という
そうした理由で“爆乳マネキン”が登場したわけですが、当地では世の女性の願望の具現化でもあり、お店の売り上げはアップ。あるお店の女性店員は前述のニューヨーク・タイムズ紙に自分のお店の“爆乳マネキン”たちを「彼女たちは最高のバストを持っている女王なのよ」と自慢。
また同時に「米国や欧州から輸入される古いタイプのマネキン人形は、わが国のいまの女性の現実のボディー・スタイルを反映していない」というマネキン製造業者の嘆きの声も紹介しています。
何を食べて…「ぷに子」と呼ぶより女子プロレスラー
そしてお次はイギリス。昨年12月、国内最大の百貨店デベンハムズのロンドンにある旗艦店には、“ぽっちゃり体形”(プラスサイズ→日本では最近「ぷに子」というらしいですよ)のマネキンが登場しました。そのサイズ、何と16号!。
日本人的感覚でいえば“ぽっちゃり”どころか女子プロレスラー並みのXLサイズなのですが、これも他国と理由はほぼ同じです。現在、英国では国民の肥満率がどんどん高まり、英国人女性の45%は何と16号サイズの洋服でちょうどいい体形だからだというのです。
英の普通のマネキン人形は10号(日本人女性では大体Mサイズ)なのですが、それではリアリティーがなさ過ぎるというわけです。驚きです。毎日、何を食ってるんでしょうかね。
肉感的で紫色の下着つけ…ネット通販時代ゆえリアルさ必要
透ける乳首、アンダーヘア、爆乳…世界の「マネキン」が自己主張、エロチックにリアル進化する“理由”とは
2014.2.16 07:00 (4/5ページ)[westライフ]
スウェーデンに登場した人間そっくりの肉感的なフォルムの超リアルなマネキン人形。フェイスブックで世界中の女性たちに拡散され、大変な支持を集めた
一方、北欧スウェーデンでは昨年3月、まるで本物の女性のような超リアルで肉感的な紫色の下着姿のマネキン人形が登場して大変な話題となりました。
昨年3月18日付米紙ロサンゼルス・タイムズ(電子版)によると、女性の権利向上などをめざす非営利組織「ウーマンズ・ライツ・ニュース」が自身のフェイスブックのページに、このマネキン人形の写真を「本物の女性に見える。米国はこうしたマネキンの製造に投資すべきだ」とのコメントを付けて投稿。これまでに約6万4000人が「いいね!」をクリックし、約3400人が賛同のコメントを寄せました。
法律で「リアルに」…ネット通販との競争
さらに、他国でも同様の動きが出ています。スペインの厚生省は2007年、昨今のファッションモデルの痩せすぎ問題を受け、国内のアパレルメーカーなどに対し、マネキン人形のサイズをより現実に即すとの理由で6号以上にするよう通達。
イスラエルでは昨年、政府がファッションモデルの肥満度を示すBMI指数(体重÷身長×身長)を標準値である18・5以上に保たねばならないと法律で定めました。これ、当地の女性の場合、身長175センチメートルで体重59キログラムというスタイルになるそうです。
ちなみに、こうしたさまざまな“リアルマネキン人形”が誕生した背景には、お店側の深刻な台所事情も深く絡んでいるといいます。
ここ数年の世界的な傾向として、ファッション系のお店はネット通販の影響で苦戦を強いられています。ある日本の業界関係者も「アパレル系の専門店は相当苦戦しています。理由は単純で、最近の顧客の多くは、お店で現物の衣服を手にとったり試着したりした後、同じものをネット通販で安く買うんです。こちらはいいように利用されているだけといった側面がありますね」と憤慨しています。
そのため、来客数とお店の売り上げ増をめざすためには店頭で商品をより強力にアピールする戦略が不可欠ということになり、マネキン人形の役割が再注目されることになったのです。
客の半数「マネキン見て決める」…同性婚、マリフアナ解禁とも密接に
透ける乳首、アンダーヘア、爆乳…世界の「マネキン」が自己主張、エロチックにリアル進化する“理由”とは
2014.2.16 07:00 (5/5ページ)[westライフ]
米ニューヨークのマンハッタンに登場した乳首が透け、アンダーヘアがはみ出たシースルーの下着姿のマネキン人形。大西洋を越え、英国でもデイリー・テレグラフなどが報じ、物議を醸し出している…
米大手市場調査会社NPDグループの調べでは、全顧客の42%が、着飾ったマネキン人形を見て、当該商品を買うか買わないか決めていることが判明しています。
ニューヨークの有名なファッション系大学、LIMカレッジの視覚販促部門のトップ、エリック・フェイゲンバウム氏も前述のAP通信に「マネキン人形は物言わぬ販売員の典型なのです」とその効果を評価します。
そんなマネキン人形ですが、最初期はろうで作られ、人間のような髪や乳首、磁器製の白い歯を持っていました。平たく言えば人間そっくりだったのです。その証拠に、欧米では1960年代までは、各店にマネキン人形専門のメーキャップやヘアメークの担当者までおり、お店を華やかに彩る存在でした。
そして60年代に入ると有名人をイメージさせるつくりが流行となり、70年代には背中のくぼみなども忠実に再現する超リアリズム路線に。ところが80年代後半以降、胴体だけになったり顔がなかったりといった風に大きく変貌しました。没個性・匿名性の象徴です。
そして今、当の女性たちの声なき声を受けてか、さまざまな身体的特徴を隠さない自己主張するリアルなマネキン人形が脚光をあびているのです。最近では、ごっつい腰回りの肝っ玉母さんタイプや、タトゥーを入れたものまで普通にあるといいます。
こうした“リアルマネキン人形”の急増は、エロいおっさんが趣味で作っているのでは決してなく、同性婚やマリフアナ解禁など、欧米社会でわき起こる多様な価値観を認め合おうという動きとも密接に関係しているような気がします…。
(岡田敏一)
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【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず) 1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部などを経て現在、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当。ロック音楽とハリウッド映画の専門家。京都市在住。
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