【主張】EU新条約発効 価値観共有ゆえ妥協成立
2009.11.29 02:37
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欧州連合(EU)の新たな基本条約「リスボン条約」が加盟27カ国による批准の完了をうけ、12月1日発効する。新設の「EU大統領」(首脳会議の常任議長)にはベルギー首相のファンロンパイ氏、「外相」(外交安全保障上級代表)には英国女性のアシュトン欧州委員が選出された。
EUは人口約4億9000万人、国内総生産(GDP)の総計は米国をしのぐ。中東和平やイランの核問題など国際社会がEUの外交力を必要とする課題は少なくない。日本も定期首脳協議などで密接な協力関係にある。新生EUの船出を祝福し、統合の深化を見守りたい。
鳩山由紀夫首相は先にシンガポールで行った演説で、自らが掲げる「東アジア共同体」について、EUこそが「私の構想の原型」と述べた。しかし、この構想には無理がある。EU統合のプロセスをふり返ればそれがよくわかる。
EUは域内の「人・モノ・カネの自由な流れ」をうたう経済統合を中心に拡大し、2002年には共通通貨ユーロの流通も始まった。警察・司法分野での協力や欧州市民権の導入に加え、安全保障分野では緊急展開部隊の創設など政治統合も進んでいる。
だが、域内では国家主権の衝突もしばしばだ。統合は利害の調整と妥協の繰り返しでもあった。リスボン条約もその一例で、加盟国の拡大に対応する欧州憲法を主要加盟国のフランスとオランダが相次いで国民投票で否決した05年の危機から生まれた。
東欧移民の大量流入を主権の侵食と感じた西欧の懸念にこたえ、欧州憲法にあった「EU旗・歌」の条文を削除するなど「連邦国家色」を払拭(ふっしょく)した。こうした妥協が成立するのは、言語の違いはあっても同じキリスト教圏の文化や伝統があり、自由と民主主義の価値観を共有しているからだ。
新たな顔となる大統領と外相に、有力候補だったブレア前英首相ら大物政治家ではなく、国際舞台でほとんど無名の2人を選んだのも調整重視のEU流だ。
翻って「東アジア」はどうか。風土も文化も宗教も多様だ。経済発展の度合いでも大きな格差がある。中国が一党独裁国家であることを忘れてはならない。
「友愛」という理想だけでは地域共同体は実現しない。リスボン条約の発効にあたり、この現実を鳩山首相に考えてもらいたい。