【主張】次世代スパコン 戦略なき開発凍結に異議
2009.11.17 03:11
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政府の行政刷新会議(議長・鳩山由紀夫首相)が来年度予算の概算要求をめぐる「事業仕分け」で、官民共同の次世代スーパーコンピューター(スパコン)開発計画を事実上凍結した。
予算の無駄を省くことは必要だが、スパコンは自動車や航空機の設計のほか、地球温暖化の予測、生命科学研究など幅広い分野で使われる。日本の国際競争力を左右する事業であり、科学技術の中核的な基盤だ。日本が今後、世界で存在感を発揮するためにも継続して開発を続ける必要がある。科学技術の総合戦略もなしに凍結するのは極めて疑問だ。
次世代スパコンは文部科学省傘下の独立行政法人、理化学研究所が中心となり、民間と共同で毎秒1京(けい)(1兆の1万倍)回という世界最高速の計算速度を目指して開発を進め、来年度に約267億円を要求していた。
ただ、今年5月には民間から参加していたNECと日立製作所が自社の業績悪化を理由に撤退した。このため、理化学研究所は残った富士通と設計を変更したうえで平成22年度の一部稼働、24年度の完成を予定していた。
今回の事業仕分けでは「世界一でなくてもよい」などと指摘され、それが凍結の理由になったという。金メダルを目指して必死に競争しなければ、違う色のメダルさえ獲得することはできない。世界一の競い合いに初めから脱落しているようでは、日本の将来について暗澹(あんたん)とした思いを抱かざるを得ない。
世界のスパコンランキングによれば、現在の日本最速であるNEC製の「地球シミュレータ」が22位にとどまっている。同機で7年前には世界1位の記録を打ち立てたが、今はIBMやクレイなど米国勢が上位を占めている。次世代スパコンにはこれらを追撃する役割が期待されていた。
NECの撤退に伴い、当初目指していた複合演算システムの実現は難しくなった。多数のコンピューターを連携させるほうが効率的だとの指摘もある。
だが、本来なら次世代スパコン開発などを含めた国家戦略は、菅直人副総理が所管する国家戦略室が基本構想を示し、そのうえで各事業の適否を判断すべきだ。まして菅氏は科学技術政策担当相を兼務する立場だ。戦略のないまま進められる事業仕分けは危うい。国家戦略の欠落が問題なのだ。