配属されたパートでは、3ヶ月後に、現場のプラントの
スタートと重なり、その間、また研修が続いた。
現場を知るため、稼働中の旧プラントを歩く。
はじめて聞いたコンプレッサーのうなり声は心地よく聞こえた。
各所に鯉のぼりのような吹流しがあった。
何か事故が発生したときには、風上から現場に近づかなければ
ならない。風下にいたために有毒ガスでやられる場合もある。
風向きを知るために、その吹流しはあった。
現場の応援では、理想どうりに工程で製品が造られているかの
確認のための工程分析である。
その現場は、反応器、そして何本かの吸収塔と蒸留塔を経て
製品が造られるが、危険なところは、最初の蒸留塔の塔頂部から
とりだすサンプルにあった。
青酸が15%ほど含まれている。防毒マスクを着け、風上から
サンプリングする。
あまり、気分のいいものではない。
現場がスタートして、何週間か過ぎた。その日は夜の11時に出勤
して、翌朝の7時までが仕事だった。
その日は雨が降っていた。何度も現場に足を運び少し慣れてきたころでも
ある。
雨合羽をきて、例のサンブリングに向かった。幅1mほどの鉄骨むき出しの
階段を昇った。勿論、手すりはある。
階段は滑り止めの加工はしてあるものの幅30cmくらいしかない。
一直線にビルの高さ5階くらいの架台へ昇る。
風向きをみて、サンプリングしポリエチレンの内蓋をして、その上から蓋を閉めた。
そして、何段か階段を降りかけたとき、足を滑らせた。
バランスを失うまいと、両手でポリの容器をつかんだ。
もし。
命が危ない。ダメかも知れない。そう思いながら衝撃がポリのサンプル容器に
伝わらないように両手で支える。
必死だった。生きた心地がしない。めがねは飛ぶし、雨に濡れることを
心配するどころではない。
何度もおしりを強打しながら、その階下に達したとき、やっと身体がとまった。。
気がついたら、冷や汗で雨合羽のなかはびしょぬれになっている。
内蓋をしっかりしていたので。助かった。と思った。
分析室に帰り、意味もなく何度も手を洗った。