またそこには子どもが多いほど浮気しやすくなる理由もあります。子どもがひとりの家庭で、妻が浮気相手の子を妊娠したら、夫は怒って『出ていけ』ということになる。でも夫との間に3人の子がいたとしたら、夫としても妻に出ていかれたら、ひとりでは育てていけない。だから夫からすると自分の子が多ければ多いほど、浮気相手の子をも引き受けざるを得ないんです

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動物の世界で起こる「不倫」めいたもの

 動物の世界において、オスは常に交尾の機会を狙っている。そこで「不倫」めいたものも起こりやすい。

「ヒヒの一種であるゲラダヒヒは小さな群れで生活していますが、群れの中にはリーダーとセカンド、合計2匹のオスがいます。セカンドはメスと交尾してはいけないことになっていますが、リーダーの目を盗んでこっそり交尾することもあるようです。

 一方、チンパンジーの社会は乱婚的ですが、オスには明確な順位があり、下位のオスにはなかなか交尾のチャンスが巡ってきません。そういうオスはメスに大きな誘惑をしかけます。気に入ったメスのそばに行って、黙ったままじっと寄り添うんです。これは駆け落ちの相談。お互い、黙っていながら、『一緒にどこかに行こう』という共犯意識が高まっていきます。話がまとまると、このカップルは自分たちの縄張りの境界付近まで出かけていって思いを遂げます」

 完全に不倫の駆け落ちである。チンパンジーはさすがにやることが人間くさい。

 もっと興味深いのは、アフリカのコンゴにいるチンパンジー属のボノボ。オス同士がペニスでフェンシングをしたり、メス同士が大陰唇をこすり合わせたりする。メス同士のこの行為は、日本のボノボ研究家が発見して「ホカホカ」と名づけられている。つまり、ボノボはコミュニケーションとして性的行動をとるのである。

ボノボは争わず、穏やかな社会を築いていることで有名なんです。何か気まずいことがあると体を寄せ合って性的行動をとる。正常位でセックスもします。ボノボの社会は本当に乱婚でフリーセックス。父親は誰でもいいんです。

 一方、他のサル社会では、子どもを抱えて集団を移籍すると、多くはオスに子どもを殺されます。なぜならサルは一般的に、離乳するまで発情しないからです。オスにしてみれば、子がいなければ、メスはまたすぐ発情して自分の子を産ませることができる。オスにとってはそれがいちばん重要な使命なので、「子殺し」もやむを得ない。でもボノボの社会に子殺しはありません。たとえ集団を移籍するメスがいても、メス同士の結束が強いので子殺しをさせない。また、ボノボは発情期間が長く、産後1年以内には排卵をともなわない発情をします

 いっそ乱婚であれば不倫は成立せず、誰の子であっても集団で育てていける。それが人間社会に当てはめられないのは百も承知だが、ボノボの穏やかな社会は学ぶべきものがあるかもしれない。

(文/亀山早苗)

<プロフィール>

亀山早苗(かめやま・さなえ)
1960年東京生まれ。 明治大学文学部卒。フリーライター。 女性誌等で活躍中。 女性の生き方を中心に、恋愛、結婚、性の問題に取り組み、かつ社会状況を的確に分析する筆力に定評がある。 著書に『不倫の恋で苦しむ男たち』『不倫の恋で苦しむ女たち』『「妻とはできない」こと』『「夫とはできない」こと』(WAVE出版)、『男と女―セックスをめぐる5つの心理』(中央公論新社)、『「最後の恋」に彷徨う男たち』(双葉社)、『婚外恋愛』(メディアファクトリー新書)などがある。