台湾:「湾生」という日本人…ドキュ映画が大きな反響
毎日新聞
27.10.22.
1時間前
◇日本統治時代に生まれ育った日本人、「里帰り」の姿追う
【台北・鈴木玲子】1945年まで50年間にわたって日本の統治を受けた台湾に生まれ育ち、敗戦で引き揚げた日本人を「湾生(わんせい)」と呼ぶ。戦後70年たち、年老いた湾生たちが「郷愁」を抱く台湾に「里帰り」する姿を追った台湾のドキュメンタリー映画「湾生回家」(黄銘正監督)が16日から台湾で一般公開され、大きな反響を呼んでいる。プロデューサーは、「埋もれた湾生の歴史を後世に伝えたい」と願う女性画家の陳宣儒さん。自身の祖母も湾生だ。日本では来年の公開を目指す。
日清戦争後の下関条約(1895年)で日本に割譲された台湾東部の花蓮や台東には西日本の出身者を中心に開拓移民が入植し、風土病と闘いながら農地を開墾した。戦後に引き揚げた日本人は、軍人軍属を含め約48万人。うち湾生は約20万人で、生活基盤がない日本で苦労した人が多いという。
陳さんは2002年、祖母に近しい人の死をきっかけに湾生の存在を知った。祖母が湾生だったことも分かり、湾生たちの台湾への熱い思いに胸を打たれた。14年かけて223人に会い、多くの「里帰り」を助けてきた。11年に映画化に着手し、撮影時間は1100時間を超えた。
映画に登場する冨永勝(まさる)さん(88)=徳島県在住=は生まれ育った花蓮に古い友人を訪ね歩いた。亡くなっていた友に涙し、再会に喜びをかみ締めた。東京都の竹中信子さん(84)は「私にとって故郷は台湾。映画を通して日本と台湾の絆が更に深まるよう願っている」と話す。
興行収入は公開から4日間で650万台湾ドル(約2400万円)に達し、台湾のアカデミー賞といわれる映画賞「金馬奨」でドキュメンタリー部門にノミネートされている。陳さんは「湾生の生き抜いてきた強さを知ってほしい」と話す。