【風を読む】論説委員長・中静敬一郎 禍根残した尖閣問題発言
2010.6.8 07:47
このニュースのトピックス:領土問題
「日本と中国が領有権を争っている尖閣諸島」。こんな、おかしな表記を時折、みかける。
日本の固有の領土であることをわかっていたら、使えない表現だ。ところが、あろうことか、日本の最高指導者が口にしたのである。
5月27日、全国知事会議で、鳩山由紀夫首相は「(尖閣諸島の)帰属問題に関しては、日本と中国の当事者同士でしっかりと議論して、結論を見いだしてもらいたいということだと理解している」と語った。
これは「解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない」とする政府見解を覆すだけでなく、尖閣諸島が日本の領土であることを否定した極めて重大な問題発言である。
岡田克也外相はさすがに翌28日、「尖閣に領土問題はない。議論の余地はない」と修正したうえで、「誤解を招くなら、正確な表現をどこかの段階で行う」と述べた。
だが、鳩山氏は31日の温家宝中国首相との会談で東シナ海を「友好の海」としたい旨を語ったものの、尖閣諸島に言及することなく、6月4日の総辞職を迎えた。首相発言として残ってしまったのである。
この意味は小さくない。1992年、尖閣諸島を自国領土とする領海法を制定した中国はさぞやにんまりしているであろう。一昨年12月、中国の海洋調査船2隻が尖閣周辺の日本の領海を9時間半侵犯し、海上保安庁の巡視船の退去要請に対して「自国領海内のパトロール」と突っぱねたことへの根拠を日本の首相が提供したともいえるからだ。
鳩山氏の発言は、思いつきのたぐいというより、普段考えていることがにじみ出たのだろう。しかし、これほど国益を損なう首相発言はない。国家観がなく、主権意識に欠ける指導者を選ぶことがいかに禍根を残すか。民主党の今回の拙速な代表選びは同じ過ちを繰り返しかねない。
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