【グローバルインタビュー】カーティス米コロンビア大教授 本心見えぬ鳩山首相 (1/5ページ)
2009.12.20 07:00
このニュースのトピックス:週末プレミアム
ジェラルド・カーティスコロンビア大教授
米軍普天間飛行場移設問題などをめぐり、日米関係の混迷が深まっている。日米関係に詳しいジェラルド・カーティス米コロンビア大教授に、問題の背景と展望について聞いた。(聞き手 松尾理也)
--普天間基地をめぐる現在の状況が、日米関係を脅かす可能性はあるか
「普天間基地問題は重要だが、日米関係全体を危険にさらすほど重要ではない。日米関係が危機を迎えるとすれば、それは日米双方の取り組みのまずさによるものだ。どちらの政府にも、この問題を扱う上で不手際が見られる」
「まず米国側は、政権交代が起き、新しく政権の座に就いた民主党が選挙戦で普天間合意の見直しに言及していたにもかかわらず、性急に、しかもきわめてあからさまに、辺野古への移転以外に選択肢はないという姿勢を押しつけた」
「しかし、より深刻な問題は日本側にある。なによりも、鳩山政権はなぜ辺野古への移転を拒否するのか、なぜ移転合意の受け入れに難色を示すのか、その理由を明らかにしていない。環境問題への懸念なのか? それとも沖縄県外への移設が望ましいと考えているのか? 連立を組む社民党へのご機嫌うかがいなのか? 米国がもっともいらいらするのは、鳩山首相の本心がわからない点だ」
「政権交代直後という事情はあるだろう。今回の政権に素人くさいところが目立ったとしても、半世紀にわたる自民党政権の後に生まれた政権なのだから、驚くにはあたらない。しかし、混乱したシグナルを送り、まるでなんの戦略も、なんの発想もないかのように振る舞うのは、ただでさえ難しい状況をより困難にさせるだけだ」
【グローバルインタビュー】カーティス米コロンビア大教授 本心見えぬ鳩山首相 (2/5ページ)
2009.12.20 07:00
このニュースのトピックス:週末プレミアム
ジェラルド・カーティスコロンビア大教授
「米政府が単に、前政権が結んだ約束を守るよう要求し続けることが正しいとは思わない。ただし、米政府が日本政府に、一体何を考えているのかはっきりするように求めることは正当だ。
日本政府のあいまいな姿勢のせいで、鳩山首相は本心では米軍の沖縄、あるいは日本への駐留を望んでいないのだとか、日米安保の地位を低下させ中国へ接近したがっているのだとか、さまざまな憶測が流れている。私は長年にわたって鳩山首相を知っているが、そうした憶測はいずれも真実ではない。
しかし、明快な説明の欠如が、こうした憶測を生んでいるのも事実だ」
--合意を破棄したとしても、あいまいなままでいるよりはましということか
「鳩山首相が米国にノーということがいい考えだといっているわけではない。率直に言って、いくつかの修正を付け加えつつも辺野古への移転を速やかに受け入れることが一番望ましいと思っている。
しかし、私は現実主義者だ。首相がさらに時間が必要ならば、それをはっきり言い、たんに米国側に気をもませ続けるのは避けるべきだ。
だから、普天間基地移転問題で結論を出すまで数カ月かかるとした首相の方針は、少なくとも米国に対し、年内決着はないとのメッセージを送った。年内決着の可能性が少しでも残っていれば、米国はそれに向けて全力を尽くすのは当然で、いまやその可能性がなくなったのだから、米国はちがったアプローチを考えなければならないことになった」
--日本政府の先送りの姿勢は、日米関係に悪影響を及ぼすか
「米政府内は極めて不快に思っているだろう。しかし現実と向き合わなければならないことも確かだ。つまり、米政府は合意受け入れが最善の選択だということを鳩山政権に納得させなければならない。
もはや、前政権が合意に達したからといって、現政権が同様に合意に応じると決めてかかることはできない。オバマ大統領自身、ブッシュ前大統領が中欧にミサイルを配備するとした約束を破った。こうしたことは、民主的な選挙が行われた場合、起きうることなのだ。
米国は日本に対し、何をすべきかとの教えを垂れる立場にはない。ずっと昔には、そうした『外圧』もうまくいったが、今では非生産的だ。米国政府がやるべきことは、普天間基地の辺野古への移転が、ほかのどんな選択肢よりもすぐれているということを日本政府に説得することだ」
【グローバルインタビュー】カーティス米コロンビア大教授 本心見えぬ鳩山首相 (3/5ページ)
2009.12.20 07:00
このニュースのトピックス:週末プレミアム
ジェラルド・カーティスコロンビア大教授
「鳩山首相は2つの点に留意しなければならない。ひとつは内政問題であり、日本国民の望むところをくみ取らなければならない。
もうひとつは国益であり、米国との良好な安全保障関係を維持することだ。鳩山首相は3カ月前に政権に就いたばかりで、間違いや混乱も少々はしかたがないが、事ここに至っては、普天間問題を包括的かつ組織的なやりかたで早急に見直し、主要閣僚と一線の専門家による作業部会を立ち上げ、米国と緊密な協議を行い、あらゆる意見に耳を傾けた上で、彼自身の決断を下すよう要望したい」
「オバマ大統領はアフガニスタンへの増派を決断する際、途中でほのめかしをするようなことはせず、国民に対して自ら演説をおこなって決断を伝えた。鳩山首相にも同様のやり方をすすめたい。
例えば、テレビの15分の枠をもらい、なぜ普天間についての決断を数カ月伸ばすと決断したのかを、国民に向かって演説を行ってはどうか。
もしそうした演説が実現すれば、今度は米国でも報道されるだろうし、それは鳩山首相が何を考えているかを明らかにすることにもつながる。
新政権はさまざまな変化をもたらしたが、国民に向かって直接話しかけるという点では、鳩山首相はもっともっと新しいことができる。いわゆる『ぶら下がり』では十分ではない。たんに一言、二言しゃべっても、それは往々にして誤解やトラブルにつながるだけだ。そんなやり方はやめて、国民に直接語りかける新しい方法を考えたほうがいい」
【グローバルインタビュー】カーティス米コロンビア大教授 本心見えぬ鳩山首相 (4/5ページ)
2009.12.20 07:00
このニュースのトピックス:週末プレミアム
ジェラルド・カーティスコロンビア大教授
--鳩山首相が決断しないのは、『常時駐留なき日米安保』の理念を持っているからだ、との推測も浮上している
「私は、鳩山氏が『常時駐留なき日米安保』などという考えを現実的な選択として取り上げるのは一度も耳にしたことがない。また、多くの人々が思うほど、鳩山首相が優柔不断とも思わない。ただ、現在の政治状況は極めて複雑だ。とりわけ、2つの少数与党が連立政権の中で対等なパートナーとして扱われ、強い影響力を行使する現状は、奇妙と言うしかない」
--小沢氏との二重権力構造の懸念も強まっている
「小沢氏はきわめてパワフルな政治家だ。鳩山首相にとっての課題は、その力をうまく使いつつも、自らが小沢氏によってコントロールされる事態を避け、国会をうまく切り抜け、来年夏の参院選で勝利することだ。その意味で、小沢氏を政府の要職には据えず、幹事長として遇したのは理解できる」
「しかし、その幹事長が大使節団を従えて中国を訪問し、胡錦濤国家主席と会談し、まるで自分が日本を代表しているかのようにふるまうのは、日本そして海外に、小沢氏が権力の背後ですべてを操っているのではないかとの疑念を与える。小沢氏の訪中は、まるで中国の皇帝に日本のもっとも強大な大名が参勤交代を行っているような印象さえ与えた」
「中国側が、小沢氏は強大な力を持っていると見なしていることはまちがいない。そうでなければ、胡主席が会うわけがない。小沢氏が鳩山首相を助けるのに必要なのは、幹事長としての仕事で党を運営することであって、中国の指導者と差し向かいで話し込むことではない」
【グローバルインタビュー】カーティス米コロンビア大教授 本心見えぬ鳩山首相 (5/5ページ)
2009.12.20 07:00
このニュースのトピックス:週末プレミアム
ジェラルド・カーティスコロンビア大教授
--来年は日米安保改定から50周年を迎える
「なすべきことは大きく言って2点ある。ひとつはこの50年を振り返り、日米関係がいかにうまく進んだかということを再確認することだ。もうひとつは、2010年の世界は1960年のそれとは違うということを認め、冷戦下とは違う現代の状況に対応する形で関係を深化させることだ。つまり、環境、気候変動、疾病など軍事的脅威以外のさまざまな脅威についても日米両国がどう対処できるかということを見極める必要がある」
「沖縄への米軍の駐留についても見直す必要がある。沖縄はきわめて重要な地域であり、なんらかの軍事的プレゼンスは必要だ。しかし、これほどたくさんの基地が必要なのか、これほど広大な土地を占めることが必要なのか、これほど人口が密集した地域に基地を置く必要があるのか、しっかりと再検討する必要がある」
--米軍再編がすでに動き出しているなかで、そうした議論はまだ日米間で可能か
「もっとも重要なことは、民主党政権が現在の日米安保体制に責任を持って向き合うつもりがあるかどうかだ。もちろんそうだと信じるが、鳩山首相は自らの姿勢を明確にし、力強い言葉で語る必要がある。日米同盟堅持がはっきりしていれば、細部は交渉次第だ。しかし、もし基本的な意図に疑いが生じたとすれば、事態ははるかに複雑となり、対処も困難になる」
--鳩山首相はそれをやり遂げる能力があるか
「そう思う。彼は長く政治に携わり、米国にも詳しいし、日米同盟の重要性についてもよく理解している。私のメッセージは、鳩山首相は日米関係の全体像についての彼の考えを明確に説明すべきだということだ。米国には鳩山首相が何者か、知っている人はほとんどいないのだから。
首相就任前にニューヨーク・タイムズに掲載された『鳩山論文』は、米国人の間に多くの疑念を生じさせた。普天間問題がこれほど大きな問題になってしまって残念なのは、ひとつには、実は鳩山首相とオバマ大統領は多くの共通点を持つ指導者だという事実を見えにくくさせていることだ。
日米は本来、新たな安全保障の脅威に対処すべく同盟を強化していかなければならないのに、実際には全精力が沖縄の基地問題にささげられている」