成長戦略に至る前に、金融の目詰まりの話、そして民間でできることは民間でというメッセージを出すこと、そして経済財政の一体運営についてまず体制を整えていただきたいと思うところでございます
経済成長の基本的な考え方について申し上げます。まず私は経済成長の基礎は、経済の供給側、サプライサイドになければいけない。これは常にそのように考えています。
1つは資本と労働と技術と申し上げましたが、同じ資本と労働を使ってもやはりそれが効率的に配分されているかどうかというのは、景気は空気を読むので、その意味では実は規制緩和、競争政策、民営化というのは私は大変重要なポイントになると思います。
【菅vs竹中論争】(1)竹中氏「郵政の再国有化は残念」 (1/4ページ)
2009.12.16 17:22
成長戦略策定会議・検討チームの会合を前に握手する菅副総理・国家戦略相(左)と慶応大の竹中平蔵教授=16日午前、東京都千代田区
菅直人副総理・国家戦略担当相は16日、内閣府で行われた成長戦略策定会議の「検討チーム」に竹中平蔵元総務相を招き、成長戦略について約35分間にわたり議論を戦わせた。やりとりの詳細は以下の通り。
【菅氏:経験を教えてほしい】
「本当に突然のお願いにもかかわらず、お出ましただき、ありがとうございます。言うまでもありませんが、竹中教授は私の現在のポジションの先輩にあたられる経済財政担当相をやられて、骨太の方針を何度も中心的にまとめられた。
まさにこれまでの政権における成長戦略の牽引(けんいん)役だったと認識しています。ざっくばらんに今の状況の中でどういうことをやるべきかというお考えなり、あるいはこの間の経験の中でここはこうやったらうまくいったと、ここはなかなかうまくいかなかったといったような経験談を含めて短い時間ですが、お話いただければと思います。よろしくお願いします」
【竹中氏:改革で2%成長を実現した】
「竹中平蔵でございます。菅副総理および先生方におかれましては、このような機会を与えていただきまして、誠にありがたく思っております。政権交代が実現しまして、新たに政府の中で中核を担われている皆様方は本当に大変な思いで日々でお過ごしだと思います。
政権の中で何かやるというのは、外からの批判は簡単でありますけど、1つのことをなそうと思ったら本当に大変であると思います。その意味では本当に日本のためにですね、ぜひよい政策をやっていただきたいという思いで、忌憚(きたん)なく私の考え申し述べますので、コメント、ご批判をいただきたいと思います」
【菅vs竹中論争】(1)竹中氏「郵政の再国有化は残念」 (2/4ページ)
2009.12.16 17:22
成長戦略策定会議・検討チームの会合を前に握手する菅副総理・国家戦略相(左)と慶応大の竹中平蔵教授=16日午前、東京都千代田区
「まず成長戦略ということに関連して申し上げますと、実は私自身は成長戦略をとりまとめたことが1度もございません。
成長戦略というのは、例えば2006年に与謝野馨経済財政担当相の下に取りまとめられたものとかですね、その次の大田弘子大臣のときに取りまとめられたものとがありますが、私自身は骨太方針とかいうものは作らせていただきましたけれども、成長戦略を取りまとめたことはありません。
なぜかというと、当時は成長戦略を取りまとめるところまでいってなかったということです。当時の課題は再生と活性化。経済の再生とか経済の活性化という言葉をしきりに使ったのを覚えています。
何とか再生と活性化の糸口をつかんで、次に成長戦略というところで、私は経済財政担当を離れたものですから、その後の成長戦略、私もいろんな意見がありますし、そのことについては与謝野さんなり大田さんなりに聞いていただく方がよろしいのかと思います。成長戦略そのものについてどのように考えるべきかということについて、私の学者としての考えを申し述べたいと思います」
「まず私の経験を踏まえてということでありますけども、ぜひ重要なポイントを最初に申し上げておきたいと思いますのは、私が担当していたのは成長に導くための改革をやった。具体的にやったことということは3点に集約されると思います。不良債権の処理、そして郵政の民営化、そして経済財政の一体運営。この3つであると申し上げてよいと思います。
当時まだ金融危機でありまして、不良債権比率は8.4%ぐらいから、私のときに1.5%ぐらいまで下がりましたけれども、不良債権の処理の象徴であったところのりそな銀行に対する公的資金注入というのは2003年の5月11日でございます。そのころから経済がようやく反応してくれたということです。
郵政民営化、これは2005年に行いました。経済財政の一体運営というのは、まさに経済財政諮問会議で、それまで経済企画庁がマクロ経済をやって、大蔵省が予算をやるということを一体的に運営するという仕組みを作ってなんとか軌道にのせたということだと思います」
【菅vs竹中論争】(1)竹中氏「郵政の再国有化は残念」 (3/4ページ)
2009.12.16 17:22
成長戦略策定会議・検討チームの会合を前に握手する菅副総理・国家戦略相(左)と慶応大の竹中平蔵教授=16日午前、東京都千代田区
「結果的にはみなさんの中では当然いろんなご評価があると思いますが、不良債権処理が軌道にのった2003年から、そして小泉内閣から安倍内閣に引き継いだ2007年。2003年から2007年までの期間をみると、財政を健全化しながら2%強の成長をして、実はその7割が内需成長でありました。
つまり不良債権処理というのは、要するに金融の目詰まりをなくすということ。郵政民営化というのは、民間でできることは民間でやれるという一つのシンボルの仕事。経済財政の一体運営というのは、まさに財政健全化と景気の維持という両方の狭い道を歩むためのバランスをちゃんと見る
。内閣府の試算で、今日の新聞に出てますが、需給ギャップ35兆円。その35兆円をどのくらい財政の需要で埋めるのかと。埋めなければいけないけれども、一方で中長期的には財政健全化させなければいけない。そのシナリオを作るのが私の役目であった」
【竹中氏:郵政の再国有化は残念】
「繰り返し申し上げますが、こういう改革として経済を強くするというメッセージが出たときには2003年から2007年まで消費も投資も進んだし、2%強の成長で7割が内需であって、象徴的には2005年、郵政民営化をした年の株価は1年間で42%上がった。
まず成長戦略に至る前に、私はぜひ、金融の正常化。今日は大塚耕平内閣府副大臣がいらっしゃいますけども、バーゼルII(新しい自己資本比率規制)がどの程度の期間で実施されるか知りませんけれども、実質的には日本の銀行は再び実質的な意味で資本不足に陥って、それが金融の目詰まりを招いていると私は思います。
郵政民営化に関しては、みなさんのお立場があるとは思いますけども、私はやはり再国有化されたというのは大変残念なことであると思います。
経済財政一体運営に関しては、経済財政諮問会議を廃止して国家戦略局で担うことになっているわけでありますけれども、準備がなかなか大変だということだと思いますが、一体運営の姿がなかなか見えてこないということも事実だと思いますので、そこはまず成長戦略に至る前に、金融の目詰まりの話、そして民間でできることは民間でというメッセージを出すこと、そして経済財政の一体運営についてまず体制を整えていただきたいと思うところでございます」
菅vs竹中論争】(1)竹中氏「郵政の再国有化は残念」 (4/4ページ)
2009.12.16 17:22
成長戦略策定会議・検討チームの会合を前に握手する菅副総理・国家戦略相(左)と慶応大の竹中平蔵教授=16日午前、東京都千代田区
【竹中氏:成長の基礎は供給にある】
「経済成長の基本的な考え方について申し上げます。まず私は経済成長の基礎は、経済の供給側、サプライサイドになければいけない。これは常にそのように考えています。もちろん需要側は重要なんです。しかし、需要というのは供給を上回って成長することは絶対できませんので、その天井を決めるのは供給側です。
しかし、現実に日本の政策論議では供給側の議論というのはほとんどなされません。サプライサイドが決めるものは何かというと、資本を増やすこと、そして労働投入を増やすこと、そして技術を高めること。この3点しかありません。
資本を増やすためにはどうしたらいいかというと、資本に対する、リターンに対する税金を安くする。投資減税とかですね、そういうものはやっぱり重要だ。投資減税は財政の制約であまり私が担当しているときもできませんでしたけど、それでも先行減税というのをやりました。それは効果があったと思います。
労働の供給を増やすのは、これは学術分野でも非常に議論が分かれていて、難しいですけども、一例としてオーストラリアはものすごい政策を今とっているというのをみなさんご存じだと思います。
2200万人の人口を2035年に3500万人にする。人口を1・5倍にするというわけです。約800万人の新規移民を受け入れて、その移民を受け入れるということを表明しているので、そのための新規のインフラ投資も始まって経済が活性化している。
日本ではまだ不況に対する金融政策をどうするかということの決着がついておりませんが、オーストラリアでは過去数カ月の間にすでに3回金利を引き上げています。つまりそういう段階を通り越して次の成長段階にいっているわけです。
これは分かりやすい政策ですが、日本の社会風土から移民の問題というのはそんなに簡単ではないということも事実だと思います。ただ、やはりそういう供給サイドを強化するということが、分かりやすい基本であると。
で、後は技術。これは特にみなさん力を入れになると思いますのは、たぶん環境の話とか、そういうものだ。これは当然重要なことで、そのための技術開発をやっぱりやらなければいけない。
もう1つは資本と労働と技術と申し上げましたが、同じ資本と労働を使ってもやはりそれが効率的に配分されているかどうかというのは、景気は空気を読むので、その意味では実は規制緩和、競争政策、民営化というのは私は大変重要なポイントになると思います。郵政に関してはそういう意味では、現時点では逆の方向に行こうとしているのが私にとっては繰り返し残念に思います」
続き 竹中氏
【菅vs竹中論争】(2)菅氏「小泉・竹中路線は失敗」 (1/4ページ)
2009.12.16 17:25
【竹中氏:メッセージが重要だ】
「もちろん供給に加えて需要側の対応がいります。これは需要には2つあると思います。抑圧された需要を掘り起こす。これは規制されている分野というのは抑圧された需要があります。教育、社会、福祉さらには通信と放送の融合の話があるが、これは規制によって抑圧された需要がありますから、それを解き放ってやる。供給サイドを高めるとともに今言った抑圧された需要を高めてやって需要と供給がバランスよく成長していくという形を作らなければいけない。将来需要の先取りも必要だろうし、そのための政策は考えなければならないと思います」
「提言として申し上げたいと思いますが、今までの成長戦略で、私は成長戦略を作っておりませんので、適切ではないかもしれませんが、実はやはりこれをやるんだというメッセージのようなものが非常に見えにくかったということだと思います。
これは先生方、いま大変悩んでおられると思いますけども、各省庁にいろいろ出すといろいろこう玉をもってきますけども、玉を積み重ねるだけでは、やっぱりメッセージになりません。その意味では日本は都市環境立国になるんだという宣言を高らかに首相からしていただいて、そのための技術、そのための資本蓄積、そのための労働投入をやる。
都市環境立国。特に都市に関しては、地方の方々の意見がいろいろあるかもしれませんけども、実はこれから30年間の間に3大都市圏で大地震が起こる確率は87%。これはやっぱり安全な都市をつくると。安全な都市をつくる過程で世界に通用する強い都市をつくる。
前原誠司国土交通相が大臣に就任して、オープンスカイをやられました。これは典型的な規制緩和です。これは要するに私たちがやろうと思っても何度言っても当時の族議員と官僚にはね返された。政権交代したからできていることでありますから、そのようなことも都市を強くする。
そしてそれはまさに規制緩和でありますから、それはぜひやっていただきたいと思います。さらに言えば、これは首相が東アジア共同体の話を言っていますけども、日本は欧米とアジアのゲートウェイになる。そのゲートウェイというのは通過点でありますから、情報のゲートウェイとしては改革を当然しなきゃいけない。
お金のゲートウェイとしては、金融センターをつくる。そのための資本強化、労働強化、技術強化をやる。そういうまさに戦略的アジェンダをお立ての上でサプライサイドを強化して、そして隠された需要を掘り起こしていく。そのようなことをやっていただきたいと思います」
【菅vs竹中論争】(2)菅氏「小泉・竹中路線は失敗」 (2/4ページ)
2009.12.16 17:25
「その意味では結論から言いますと、やはり税制改革と規制改革、民営化を伴わない成長戦略は私はあり得ないと思います。最後に研究開発なんかですね。各省庁がいろんな玉を持ってくると思いますが、実は経済産業省にある新産業創出の予算とういのは、だいたいアメリカと同じぐらいだというリサーチがあります。
GDP(国内総生産)サイズでみると、したがって日本は新産業創出のためにすでにアメリカの2倍のGDP比で予算を使っている。しかし、それがほとんど霞が関で使われています。民間に使わせる仕組みになっていない。そういう点は新政権においてぜひ今までできなかったことをやっていただければ大変国民の高い評価になると思います。ぜひいろんなご意見をたまわりたいと思います」