『紫禁城の黄昏』完訳版が文庫化 満州国建国の真実、ここに (1/2ページ)
2008.11.22 11:39
紫禁城の黄昏
先の大戦は日本の侵略だったかどうか-。航空幕僚長だった田母神俊雄氏が政府見解と異なる論文を発表して更迭されたが、ちょうどそのあたりの事情を描いたノンフィクション『紫禁城の黄昏』(祥伝社)の完訳版が文庫化されている。
映画「ラストエンペラー」の種本となった同書は、日本ではこれまで岩波文庫版が有名だったが、辛亥革命までの章は割愛され、歴史を一面的に描いていると批判もされていた。完訳の祥伝社版は清朝最後の皇帝、溥儀の求めに応じて、日本が支援に乗り出した過程も克明に記している。
著者は溥儀の英国人家庭教師、R・ジョンストン。昭和9年に刊行され、各国で読み継がれてきた。邦訳も初版とほぼ同時に出版された。
だが、岩波版は、著者が「陽光ふりそそぐ時期」としたにもかかわらず、溥儀の誕生、即位を含む辛亥革命までの章を「主観的な色彩の強い前史」(岩波)として割愛し、満州族の「希望と夢」を描く章も省略。
訳文でも「溥儀は蒋介石にだけは頼らない」を「最後に頼るのは蒋介石」と“誤訳”するなど、全体的に現中国政府の姿勢に沿った内容となっていた。
『紫禁城の黄昏』完訳版が文庫化 満州国建国の真実、ここに (2/2ページ)
2008.11.22 11:39
紫禁城の黄昏
「完訳により、やっとありのまま伝わるようになった」。そう話すのは、祥伝社版の翻訳にあたった麗澤大学学長の中山理さん。
10月に文庫化された祥伝社版によると、政情不安で身の危険を感じた溥儀はジョンストンと日本公使館へ駆け込んで保護を求め、そこで3カ月を過ごした。「その間に溥儀は漢民族に落胆して満州への帰郷を決意した」と中山さん。
溥儀は戦後、東京裁判でソ連側証人となり「日本の傀儡(かいらい)」と証言した。
しかし、中山さんは「溥儀は確かに、満州国建国を夢みていた。生まれ育った北京で侮辱され、故郷に帰って、日本に支援を求めた。信頼が両者を結んだ。一方的な侵略ではない」と話す。
歴史を知るのに、本書は示唆に富む。田母神氏の問題を語る前にぜひ一読してもらいたい。(牛田久美)